一晩中観ても全く飽きなかった~リオのカーニバル編

ぱしふぃっくびいなすの世界一周クルーズ2015のハイライトの一つは、リオのカーニバルを観覧することであった。

2015年2月14日、グアナバラ湾入り口にあるリオデジャネイロ港に入港したぱしふぃっくびいなす。ナミビアのウォルビスベイを出港してから13日、大西洋を横断してようやく辿り着いた。スピード全盛の世の中にあって、船旅の時間感覚は独特である。

カーニバルの時期なので、港には客船が6隻くらい並んでいるのが見えて圧巻だった。
船

午前中街に出ると、いきなりこんな光景になっている。あちらこちらの街頭で繰り広げられるカーニバルの騒ぎに夜を徹した後がこの姿、疲れてどんよりとはなっていない!明るい太陽と彼らのエネルギーには抑圧感がないのだ。
街

カーニバルの期間は休暇になり、街中のあらゆる機関やお店がお休み。銀行の防御態勢が「一体どれだけ騒ぐのか?」と思わせる(ATMコーナーさえも開いていない)。
街

ブラジルの代表的な料理フェイジョアーダ。レストランも軒並みお休みなのだが、観光客向けにカーニバル期間中でもフェイジョアーダを食べられるお店が市のインフォメーションで紹介されていたので出かけた(Beteco Belmonte)。

豆と肉の煮込み料理でごはんにかけ、マンジョーカ(キャッサバ)の粉をふりかけて食べる。くどくも油っぽくもなくて素朴な味、豆がおいしい。
料理

食後フラメンゴ公園のあたりを散策。飲みかけのペットボトルの水を手に歩いていたら、サンバ騒ぎのお兄さんが近づいてきて「水ちょうだい」と言う。断るのもどうかと思ったので、その飲みかけのボトルを差し出したらごくごく飲んで、まだ半分水が残っているボトルをそのまま持って去って行った。「おお、日本人にはないメンタリティ!!」と見送る私たち。

その後、公園に続々と人が集まっていたが、その一角で何やらケンカが始まった。パトカーが2台入ってきて警官が降り立ち、駆け出して行く。取り押さえられたかというところで発砲音が聞こえた。本物なのか?物騒だった。

いよいよサンバ・コンテスト

翌2月15日、サンバ・コンテスト観覧の日。カーニバル(謝肉祭)は四旬節の節制期間に入る前の祝宴が起源。5日間のカーニバル期間中、リオは街中がお祭りになり、全体がリオのカーニバルではあるのだが、一般にリオのカーニバルと言うと、サンバ学校(エスコーラ・ジ・サンバ)が参加するサンバ・コンテストをさす。今回私たちはスペシャル・グループ(最上位)の12チームがパレードを競う2日にわたるコンテストの1日目を観覧した。

午前中は晴れてイパネマ海岸を散策したりして過ごしていたのだが、夕方が近づくにつれ雲行きが怪しくなり、19時頃には激しい雷雨になった。20時すぎに雨カッパを着て船を出発、バスに乗ってコンテスト専用の会場であるサンボドローモへ向かう。40分ほどで会場に着いた。バスを降りてゲートまで少し歩いたが、雨がザーザー降りなのとすごい人なのとで皆にはぐれずについて行くので精一杯。

会場スタッフが座布団を配っており、それを敷いて指定席に座る。スペースは狭くてびっちりと人が並ぶ。21時40分に最初のチームのパレードが始まった。開始前にたくさんのスタッフが出て通り道の水をはけていたけれども、雷雨が止む気配はなし。パレードする道は全長約700メートル。私たちの席はフィニッシュ地点寄りだったため、パレードがスタートしても、遠くで音楽が聴こえるという感じであった。開始15分くらいでパレードが近づいて来る。雨の中花火が何発も上がっていた。

1チームは3000~4000人ものメンバーで構成され、持ち時間は65分以上80分以内。趣向を凝らしたテーマとそれに基いた音楽によってパレードが組み立てられている。大きな山車が1チームあたり8~12も登場する。
パレード

チームのメンバーには様々な役割があるが、山車の頂点に立つ女性は栄誉なのだそう。サンバは同じ振付を揃えて踊るのではなく、それぞれが音楽に合わせて思い思いに動いていた。私は日本のサンバ祭りに行ったこともなく、サンバの踊りについて何も知らなかったのでそれがとても新鮮に見えた。さらにこのパレードを見て、サッカーのカズ(三浦知良選手)がゴールしたときにする動きはサンバのステップだと知った(25年くらい?時差がある)。
パレード

チームによっていろんな趣向の山車が登場する。巨大な山車は正直なところ、ちょっとこけおどしみたいな印象を受けた。
パレード

観客席は7万人収容。皆雨カッパを着ているので色が白っぽい。
パレード

私たちはセクター9という外国人観光客向けのセクションで観覧した。審査員席の正面なのでダンサーが真剣に踊るところを見られると一般的に旅行会社が勧める席だ。確かにものすごい真剣勝負が繰り広げられるのだが、ダンサーは専ら審査員の方を向いて踊るため、セクター9からは背中しか見えない。ちょっと寂しかった。
パレード

チームが近づいて来る。演技の経過時間を表示する時計がある。各チームの趣向は様々だった。テーマカラーを明確に打ち出しているところ、伝統文化の表現を重視したチーム、はたまた目新しいチャレンジをするチームなど。
パレード

こちらは不思議の国のアリスがテーマのチーム。テレビクルーが寄って撮影している。今の高解像度の技術によって、テレビ放映されるカーニバルの映像は鮮烈でとても楽しめるようになっている。俯瞰したものから、各ダンサーの表情、衣装のディテイルまで自由自在なので、会場よりもテレビで楽しむ方を好むブラジル人も多いそうだ。当然ながら会場ではそこまでは見えない。
パレード

大量のキャラクターはインパクトがあった。パレード全体として、メンバーの動きには統率感がないが、同じ衣装のメンバーがひと塊になって通過して行くので、そういう意味でのまとまりはあった。
パレード

現代のリオの人々の生活や関心事をテーマに扱ったチーム。頭がくるっと360°回転する。奇抜でチャレンジングな題材のパレードは面白かったが、コンテストの採点の重心はそれとは別のところにあるようであった。
パレード

会場でパレードを見る醍醐味は何と言っても音楽だ。各チームの音楽は耳に残る曲調なのですぐ覚えられる。そして圧巻はバテリアと呼ばれる打楽器セクション。200人以上が演奏する打楽器の音は地鳴りのような大迫力。これだけは現場でしか体験できないし、これを味わうためだけにわざわざ出かけても十分見合うくらい身体に響いてくる。一緒にリズムをたたいて楽しかった。
パレード

雨は3チーム目のときには止んだが、5チームで再度降り出した。2チーム終了時に最初の船に戻るバスが出たのだが、激しい雨だったので乗って帰る人も多くいた。私たちは結局、その日の最終である6チーム目まで観ていた。朝6時近くになっており、空がしらじらと明けつつあった。もっとも、終了時のバス乗り場の混雑がものすごいという理由で少し早く観客席を出たので、パレードの最後は見届けられなかったのだが。それでもバス乗り場は激混みで、バスが近くに来るまでしばらく待った。来る前は朝までパレードを観るなんて、途中で退屈するんじゃないかと思っていたけれど、あっと言う間でとても楽しめた。
パレード

リオのカーニバルに行って感じたことは、一つは雨に対する考え方。パレードは雨が降っているか否かに全くおかまいなく繰り広げられていた。羽が広がっていたり布が大きく広がっている衣装は濡れてさらに重たくなり、踊るのが大変なのではないかと見ていて心配したが、そんなことを気にしている様子は出演者の誰からも微塵もうかがわれなかった。そもそも会場に来る途中、バスの車窓から見えた街を歩く人々も傘をさしていなかった。日本人の感覚だと、「せっかくのハレの日に雨が降るなんて」と残念な心持ちになるが、「雨=残念」と結びつける気の持ち方が人類共通のものではなく、文化の一つに過ぎないのではないかという気がした。

もう一つ面白かったのは、パレードの観覧の仕方。ぱしふぃっくびいなすの一行は外国人の観覧席だったので、他の国から観に来た人たちもたくさんいた。欧米人と思しき人たちは立ち上がって動いたりしながら観覧するのだが、日本人は皆行儀よく座って観覧する。したがって、日本人からは欧米人に対して「立ち上がると視界が遮られるから迷惑」となる。「見えないから座ってほしい」と要請した日本人に対して、欧米人が返した「Why?」の表情が何とも印象的であった。彼らは迷惑をかけるつもりはさらさらなく、場を楽しんでいるだけなのだ。逆にこんなところで整然と座って観覧しているなんて「信じられない!!」のである。この反応の違いはすごく興味深かった。

ちなみに、ぱしふぃっくびいなすの乗客は平均年齢が70歳を超えていた。私たちよりはるかに先輩なのだが、彼らのバイタリティはすごかった。船の朝は6時半からのラジオ体操、7時からのヨガ教室で始まる。前後にデッキを歩く。様々に提供される講演会、カルチャー、エンターテインメントなどの船内イベントには積極的に参加。本格的なデジカメを持って玄人はだしの写真を撮る人がたくさんいる。日の出や夕日(日の入りに一瞬だけ太陽が緑色に光って見えるグリーンフラッシュを狙う)はもちろん、イルカや鳥などの動物、通過する景色などベストショットを狙って待機するのだが、そのスタンバイの早さと用意周到さ、ねばり強さ。とにかく何事にも真摯に取り組むのだ。彼らはいわゆる日本の高度経済成長を牽引したど真ん中の世代である。私はその一生懸命なメンタリティに驚いた。これは日本人の気質なのか?それとも世代的な特質なのだろうか?そして私たちのように日本が豊かになってから育った世代が彼らの年代になったとき、果たしてどういう気質が現れるのだろうか。ひじょうに興味深いと思った。私はあまりにもこのことが深く心にささったので、船の中で開催された川柳教室で思わずこんな句が出た。

勤勉なお客でわかる日本船

(2015.2.14~2.16)