アメリカ型成功者の物語
「アメリカ型成功者の物語 ゴールドラッシュとシリコンバレー」
野口悠紀雄 著
新潮文庫 2009年
この本は、週刊新潮の連載をもとにした既刊の『ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル』に、2008年9月以降の経済情勢をふまえたあとがきを加えて文庫化したもの。
本屋へ行くと、アメリカがどんなに酷い国かについての本が山積みされているこのご時世、この本を手に取るのはどんな人?
野口先生は、ダイヤモンドオンラインの連載に手抜き感があることから、全く期待しないで読んだのですが、産業の盛衰というのは不可避であるところ、ビジネスの着眼が明暗を分けるという視点でゴールドラッシュとシリコンバレーを見る著者の目の付けどころが面白かったです。
内容は、アメリカの西部開拓がいかに困難だったか。そうした中ゴールドラッシュで成功を収めたビジネスモデルは、金を掘ることではなく、その周辺にあったこと。西部開拓に続いて完成した大陸横断鉄道で儲けたお金でスタンフォード大学が設立されたこと。そのスタンフォード大学が中心的役割を果たして、シリコンバレーのIT産業が発展したのだが、ここでもやはり成功はモノそのものではなく、それを取り巻くソフト面にあり、そのモデルはゴールドラッシュのときと類似していること。
これがそのスタンフォード大学。
チャペルが中心にある。
これらが偶然この地で起きたのではなく、必然であること。全ては彼の地を貫く「自由、革新、チャレンジ、チャンス」の精神に基づく。
というもの。
私は日本にしか住んだことがなく、アメリカで訪れたのはハワイとニューヨークだけ。しかも911以降のアメリカの行動を見て「私の人生で二度とアメリカへ行くことはないだろう」と思っていたくらいだったのに、今や私の渡航記録はサンフランシスコがずらっと続く。それはひとえにティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団を通して彼の地のメンタリティを体験し、
この人たちって何だろう?面白すぎる。
と興味をかきたてられたことによります。とにかく彼らは日本だったら荒唐無稽だと周りからバカにされるんじゃないかと思ってとても言えないような壮大なビジョンを掲げて大真面目にやっていて、それが本当に実現したりする。
ティルソン・トーマスとお客さんの関係を見ても、「こんなこと考えてみたんだけど、どうかな?」「うん、それも面白いね~」みたいな感じで、それが皆に新しい発想をもたらすようなものであればあるほどウケる(何せ昨年サンフランシスコ交響楽団がブラームスのフェスティバルで交響曲、協奏曲、ドイツ・レクイエムなどを演奏したところ、サンフランシスコ・クロニクル紙の年間で最も期待外れのコンサートに選ばれてしまった。理由は、音楽的な成果は大きかったものの、プログラムが過去のフェスティバルの中で最も平凡だったから)。
私にとって、この方向性は衝撃でした。
スタンフォード大学のキャンパス。
広い。学生は自転車で移動している。
この本のタイトルは「アメリカ型」となっていますが、多くの人が言うように、サンフランシスコ・ベイエリアの常識 ≠アメリカの常識であり、彼らはアメリカ国内でも例外的存在。
彼らをどう評価するかは人それぞれですが、やはり例外というのは、なぜ例外なのか、どうしてそれが生まれたのか、例外であり続けるのか?人々に果てしない興味をかきたてるのだと思います。
ここがシリコンバレーのカルチャーを紹介する人が絶えない理由なのでしょう。
(2009.6.24)