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カーネギーホールの総支配人ギリンソン氏のシンポジウム
日本オーケストラ連盟の主催によるシンポジウム
オーケストラとカーネギーホール
カーネギーホール総支配人クライブ・ギリンソン氏を迎えて
に参加しました。ギリンソン氏は、ロンドン交響楽団で6年間チェロ奏者を務めた後、同楽団で29年間にわたり経営トップを務め、芸術面に加えて、教育・コミュニティプログラムの充実や自主レーベルLSOライブの成功など、世界最高レベルの楽団へと導いた実績を持ちます。2005年にカーネギーホールの総支配人・芸術監督に就任、大規模なフェスティバルの成功、教育プログラムの拡充などの成果を上げました。
シンポジウムは、ギリンソン氏がずっと話し、最後に少し質問に答えるというもの。最初になぜオーケストラの経営に携わることになったのかの経緯から話を始めました(ロンドン響が破産の危機だったときに、経営を請け負ってくれる人が見つからなかったから)。
今までの実績を紹介しつつ話は進んだのですが、ギリンソン氏が語ったことはこの2つに尽きます。
- 多くの人を巻き込む。ビジョンを分かち合う
- 音楽のために何がベストか?
人々に音楽を通してどんな貢献ができるか?
具体的にどういうことかというと、
多くの人を巻き込む。ビジョンを分かち合う
これは、ロンドン交響楽団がミュージシャンの自主運営だったことの影響が大きいのだろうと思います。ビジョンがあれば、お金は後からついてくると言っていました。
カーネギーホールの活動で何度も出てきた言葉は「提携」。ニューヨークの他の芸術団体、公教育、大学、外国の教育機関等(サントリーホールも)、様々な提携を行っています。また、フェスティバルでも音楽だけではなく、ダンス、映画、ビジュアル・アートなどと提携、街全体を巻き込むような企画にしています。
提携により、単独ではできないことが可能になり、今までにないものを取り込むことができ、恩恵を受ける人も増やすことができるとのこと。
音楽のために何がベストか?人々に音楽を通してどんな貢献ができるか?
常にこの問いを繰り返し、そこから離れないことを強調していました。コミュニティや社会に対して何ができるかであり、社会が芸術に何をしてくれるかではないと言っていました。
カーネギーホールが景気後退期に行った対策は?
これも興味深かったです。まずコンサート数を200から170に減らした(現在は180で落ち着いている。このくらいが適切だとわかった由)。質は落とさないことが前提。
次が面白かったのですが、建設工事数が落ち込んでいたので安くあげるチャンスだと判断して、ホールのバックステージの改修を行い、教育プログラムのためのセンターを新たに設ける工事を行った。狙いどおりだったそう(2百万ドル)。
そして費用をかけずに大きな事業を行うために、他の機関と積極的に提携して活動を行った。
やはり創意工夫がある人なのだと思います。景気後退期にこそゆるぎのないチャレンジをすべしと言っていました。
教育プログラムのためのセンターは、ホールの建物内に設けることにこだわったとのこと。ホールにあることで、ホールが中心的役割を果たしていることの象徴になると言っていました。さすがよく考えている。
アメリカのオーケストラの状況について
都市ごとに抱えている課題が違うので、一つのところで何か問題があったとしても、それを全体の問題と考えるべきではない。経営とミュージシャンが一緒に問題を解決していくことが望まれる。地域に何ができるかから考えるべき。
生まれ変わることができる点がアメリカの良さである。
クラシック音楽の未来について
クラシック音楽に関わる人々が新興国など未だかつてなく広がっており、世界中にいくつも新たなコンサートホールや文化地区が誕生している。だから自分はクラシック音楽の未来について楽観していると結んでいました。
感想
私はカーネギーホールのフェスティバルに行ったとき、リンカーンセンターなどとパートナーシップを組んでいることをとても新鮮に感じました。だから今日「提携」の話がたくさん出てきたことに、非常に納得しました。
ギリンソン氏は質問に答えるとき、「質問への答えになっていますか?」と何度も確認していたのが、とても人柄を表していると感じました。
ギリンソン氏はロンドン交響楽団でまるまるティルソン・トーマスとかぶっている上に、カーネギーホールでも年間を通してフィーチャーしたり、バーンスタインのフェスティバル、ユーチューブ・シンフォニー、今シーズンカーネギーホールが120周年で取り上げるフェスティバルがティルソン・トーマスのプロデュースによるアメリカ音楽であるなど、ティルソン・トーマスが長く活動を共にしてきた人物の一人なのだと思います。
音楽に対する信念やビジョンで共通する部分が多いと感じました。アメリカのクラシック音楽界って、上層部にコンセンサスがあるのかも。
(2011.9.29)