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ロス・フィルが映画館での“LA Phil Live”配信事業を立ち上げ
ロサンゼルス・フィルハーモニックが、HD設備のある映画館でコンサートのライブ放送を開始することを発表しました。
グスターボ・ドゥダメル&ロサンゼルス・フィルを“ナショナル・ブランド”に押し上げるための重要な一歩という位置づけ。
ニュースの概要
- デンバーを拠点に映画館へコンサートやスポーツ・イベントを配給するNCM Fathomと1年間の独占契約(LAフィルの投資額は非公表)
- 今シーズンのコンサートは、1/9(曲はベートーヴェン、バーンスタイン、アダムズ)、3/13(オール・チャイコフスキー・プログラム)、6/5(オール・ブラームス・プログラム)の3回
- 日曜のお昼2時開始
- コンテンツは、コンサートの舞台裏映像やライブ・インタビュー、Q&Aセッションなどを含む
- チケット価格18~22ドル
- 南カリフォルニア各地の映画館を筆頭に、ニューヨークやシカゴなど、有力オーケストラがある地域を含む450の映画館での放送を予定(北米・カナダのみ)
相互不可侵の枠組みを超えるか?
ロス・フィルは、“グスターボ・ドゥダメル”というスーパースターとウォルト・ディズニー・コンサートホールの圧倒的インパクトを武器に打って出るということのよう。
私もこのニュースを聞いて、「ドゥダメルにしかできない」と思いました。他にこういうことができそうなアメリカのオーケストラは思い浮かばない。
ただこの動きには一つ大きな問題があります。
ドイツにおいてベルリン・フィルが“ナショナル・ブランド”であることに大方のドイツ国民が賛同するであろう状況とは違って、アメリカでは各地域に力を持ったオーケストラが存在します。だからロス・フィルが“ナショナル・ブランド”を主張すると、物言いをつけるオーケストラが少なくとも10は出そうであることがまず背景としてある。
これまで彼らはツアーで各地を公演することはあっても、マーケットが競合することなく、いわば暗黙の相互不可侵で活動してきました。今回の映画館でのライブは、その枠組みを崩すことになります。
またアメリカには、都市だけではなく郊外やそのまた郊外にもローカルで活動するオーケストラが存在しますが、それらのオーケストラの地盤を直撃することにもなります。
ロス・フィルもこの点は考えており、映画館の席をまとめてローカル・オーケストラが購入し、ライブに合わせてローカル・オーケストラのイベントも映画館で行うなどの方策をあげていました(少し都合がよすぎる案のように思えるけれど)。
メトロポリタン・オペラはライブ・ビューイングの成功について、何十年もラジオで生放送してきたことが顧客のベースになったことをあげていましたが、こうしたベースがなく、またオペラのような視覚的要素やスペクタクルもないオーケストラ演奏で、ロス・フィルのチャレンジがどうなるか?
リスクがあろうとも先駆者となることが重要(byボルダ女史)。強い!
LA Timesの記事
L.A. Phil to transmit performances to HD-equipped movie theaters
おまけ:パブロ・ヘラス=カサドが凄い件
話はかわりますが、11/10放送KDFCのサンフランシスコ交響楽団のコンサートは、パブロ・ヘラス=カサド(Pablo Heras-Casado)指揮でした。
私は初めて聴いたのですが、驚きました。何がびっくりって、MTTはウルトラ細かしいニュアンスを表現できるオーケストラを作ったわけですが、客演指揮者でこれを生かせる人はほとんど出ない。それを33歳の鳥の巣あたまのお兄さん(スペイン人)が初めてやってきて、サラっとやってのけた。世の中すごい人がいるものです。ぜひ生で聴いてみたい(今シーズンN響にも来る。N響でも良さが出るかは不明)。
(2010.11.10)